真空管エフェクター、ロマンのある響きですが実際真空管の音って出るんでしょうか。今回はその辺について切り込んでいきたいと思います。
※真空管エフェクターを使っている方、真空管エフェクターが大好きな方はブラウザバックをおすすめします。
真空管エフェクターってなんだ
エフェクター初心者の方がご覧になる可能性も無きにしも非ず、あと改めて真空管エフェクターとはどういうものかを前書き程度に書いてみます。
まず真空管エフェクターとは読んで字のごとく真空管を搭載したエフェクターのことです。
使われている部分は大抵増幅部で、市販されている真空管エフェクターは多くが1本のみ乗せられています。
物としてはトランジスタの一石回路みたいなエフェクターになります。
Vemuram Jan Ray等トランスペアレント系の流行が落ち着き始めた頃に真空管エフェクターブームがあり、BeyondやLee custom amplifierの2メーカーが流行しました。
真空管アンプは音が良い、というのは以前から知られていた話ですがメンテが難しい、音量的に扱いにくい、持ち運びが不便などの理由から真空管機材の需要があり、そこへ前述の2メーカーが上手く入り込んだことで大ヒットという感じです。
真空管の音とは
そもそも真空管の音の定義をしておかなければご覧いただいた方と認識にズレが生じてしまうので、改めて定義しようと思います。
ここで言う真空管の音とは「真空管アンプを再現した音」になります。
例えば真空管を通っていても真空管の音、と解釈出来ますがそういう事ではありませんよね。
「真空管を通った音」を求めている方はこの記事を読む価値はあまり無いです。
「真空管アンプを再現した音」を真空管エフェクターに求める方は一見の価値ありだと思います。
真空管エフェクターを買う方は真空管アンプの音を求めていると思うので愚問ですかね(;^ω^)
真空管アンプの音とは
ここを含む2個の見出しで真空管エフェクターについて書きます。少々回路的な話も含むのでここからが本題です。
まず真空管アンプの音を真空管エフェクターに求めるなら真空管アンプの音とは何かを知る必要があります。
真空管アンプの音とは、
多段増幅回路によるリニアな増幅により得られる音とそれに伴う音響的特徴のある音
です。
どういう事か説明する前に、真空管アンプの簡単な仕組みについて書いておきます。
真空管アンプはギターやベースの微弱な信号をプリ管という真空管で数回の回路に分けて増幅し、最後にパワー管でスピーカーを動作させるのに必要な出力まで増幅します。
エフェクターに例えると、ゲインツマミのある回路がプリ管の回路で、ボリュームツマミのある回路がパワー管の回路というような認識で大丈夫です。
小難しい話を抜きにすると、ここに非対称歪みであったり偶数次倍音が多く含まれる等の理由から真空管アンプっぽさが生まれます。
ちなみによくある非対称クリップスイッチは真空管アンプの非対称な歪みを再現するためだったりします。
これを真空管エフェクターで再現するなら出力回路はアンプに任せればいいので、真空管エフェクターに必要なのはプリ管の回路だけで良いというのが分かると思います。
だから真空管エフェクターにはパワー管のような大きな真空管は乗っていないというわけなんですね。
真空管エフェクターで真空管アンプの音は出るのか
結論から言うと、無理です。
正確には不可能ではありませんが、再現するとなるとエフェクターボードに小型のプリアンプヘッドサイズのエフェクターを置くことになります。
というかプリアンプそのものになります。
回路の知識があったり勘の鋭い方ならもうご理解いただけたと思いますが、先ほど述べた通り真空管アンプの音とは、
多段増幅回路
により得られます。
真空管アンプって少なくともプリ管が2本以上挿さってますよね。
つまりはそういうことで、真空管が1本の時点で真空管アンプの音は出ず、出ているのは真空管を通っただけの音なのでそもそもお門違いという事です。
じゃあ真空管を2本以上使えば良いではないか、となると思います。
この問題は真空管1本の時で既にある問題点ですが、電源的に不可能です。低電圧で動作させるならそれこそ半導体でいいじゃないか、となりますよね。
消費電流もさることながら、プリ管を正常に動作させるには200V以上の電圧が必要です。
市販のパワーサプライでは消費電流の問題以前に電圧的な問題があるので専用アダプター必須、そして昇圧用の巨大なトランスも必要というわけです。
つまりは電源が9Vの時点で本当の意味で真空管エフェクターではないという事になります。
そもそも電子部品としての性能は半導体より真空管の方が劣っており、本来の動作が出来ない真空管は半導体に勝ち目がないというのは明白な事実です。
真空管バッファーなるものはFETを真空管に置き換えただけで、性能面で言えばFETの方が上です。真空管歪みエフェクターというのもありますが、そもそも真空管の本来の使い方ではない回路も多いです。
前述の通り、真空管アンプは多段の増幅回路による歪みを積み上げたものが好まれるわけですが、それを真空管一本でやろうとすると、真空管による整流作用を利用して歪ませるという全く別の動作になります。
松美庵さんのValve Casterはそれを利用した回路で、真空管本来の歪みではないと言えます。ダイオードによるクリッピングと同じです。
ちなみにBeyondは内部昇圧すらしていないですし、Lee custom amplifierは内部昇圧していますがDC-DCコンバータによるものです。
実機は3万円とかなりお高めですが、その価値はあると言えるのでしょうか。
Beyondに至っては元ソニーの社員の方が立ち上げたブランドらしいですが、どういうつもりなんでしょうね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
多分真空管エフェクターというのはエフェクター業界で最も闇の深い部分の一つだと思います(;^ω^)
ビンテージパーツなんかもその類ですが、この辺は性能や音を求めるならやめておいた方がいいです。
所有欲を満たすとかになれば別の話なのでいいんですけどね(;^ω^)
今回は注意喚起のような記事になってしまいました。
ちなみに真空管アンプのような音をエフェクターで出したいなら、半導体を使った方がよっぽど近づけられます。
真空管アンプのような音が出ればいいだけでそこに真空管を使う必要性は全くありません。
そもそも小型回路で真空管が半導体に勝った過去なんて一度も無いですからね。スマホの時代にわざわざガラケー、いやバブル時代の例のでかい電話を使う必要性はどう考えてもありません。
実は少し前に半導体を用いたアナログ回路で真空管アンプとほぼ同じ音が出せる歪み回路も思いついたところなので、いつか販売して感想を聞いてみたいなぁと思ったりしています。この回路は市販では見たことが無いので新しい歪み発生回路だと思います。でも製作依頼でなかなか時間が無いんですよね(;^ω^)
最後まで読んでくださってありがとうございました(^▽^)/
コメント
初めまして。
1つでも真空管を通りさえすれば倍音成分が含まれるから「真空管の音」になると漠然と思ってました。
MV50のようなアンプヘッドは真空管の音が出ますか
MV50に用いられているNutubeという素子は技術的な面でかなり問題を抱えています。
特にノイズ性能は悪く、通常の真空管の方がよほど低雑音です。
私としてはNutubeを採用している時点で選択肢から外してしまうのが正直な感想です。
ご質問では真空管の音が出せますか、との事ですが、Nutubeはギターアンプに使われるプリ管より特性が随分素直で、歪ませて使うギターアンプより、なるべく歪みを減らしたいオーディオアンプ向きだという印象です。
よってNutube単体で歪ませるのは難しく、MV50は半導体で歪みを作っているのではないかとすら推察しています。
「真空管風」なら感じ方それぞれですが、真空管アンプの音とは言えないでしょう。
“アナログ回路で真空管アンプとほぼ同じ音が出せる歪み回路”
こんなの思いついちゃったんですか。興味津々です。