【それって実際どうなのか】エフェクターは昇圧する意味があるのか問題

ノウハウ

皆さん昇圧してますかね。

手あたり次第昇圧していい音になったりあまり変わらなかったり、ぶっ壊れたり、色々あると思いますが、Twitterで昇圧について知りたいとリクエストを頂いたので今回はそんな昇圧について書いていこうと思います。

少々難解ですがなるべく分かりやすく書くのを心がけてみます。

昇圧ってなんだ

初心者の方向けに、そもそも昇圧ってなんやねんという話をしておきます。

まず一般的なエフェクターは大抵9Vで駆動していますよね。

それを18V(実際は17V後半ですが)ないしは12Vや27Vと電圧を上げてエフェクターを駆動させるというものです。9の倍数なのは昇圧回路を駆動させるのに9V電源だからという理由ですが、実際には電圧降下があるので若干低いです。

基本的には歪みエフェクターでよく昇圧します。エフェクターの商品説明で、「18V対応」と書かれていれば使えますが、それ以外は自己責任です。

デジタルエフェクターは当然ですが、空間系やモジュレーション系など歪み以外のエフェクターは昇圧すると結構な確率でぶっ壊れるのでやめておくのが無難です。

ついでにファズもやめておいた方がいいです。壊れなかったとしても昇圧にあまり良い結果は得られません。

なので昇圧するとしたらオーバードライブかディストーションですね。

昇圧する方法ですが、12V~18V出力端子付きのパワーサプライを買うか、下記のような昇圧モジュールも売っていたりします。

自作出来る方は自作するのもアリです。

一応アナログの歪みエフェクターでも低耐圧のパーツが使われていると故障します。

他にも点接合型のゲルマニウムダイオードが使われているエフェクターは昇圧すると過剰電圧で傷んでしまう事もあるので無暗に昇圧するべきではないと言えるでしょう。

昇圧回路

一応自作系ブログなので昇圧回路も紹介しておこうと思います。ちゃんとしたやつはまた別記事でまとめるのでご安心ください。

なぜかいくら探しても昇圧回路の回路図が出てきませんでした。どこかで見かけた気がするんですが、また見つけたら更新しておきます。

とは言え簡単な回路なのでレイアウトからでも分かるかと思います。

IC1はチャージポンプICという昇圧用のICで、エフェクターによく使われるオペアンプとはまた違ったICです。

レイアウトではLT1054というチャージポンプICが使われていますが、ケンタでお馴染みのMAX1044等その系列のICなら何でも使えます。

まあMAX1044は耐圧が10.5Vだったと思うので、ご不安な方は互換品を使うと良いでしょう。

なぜエフェクターメーカーがやらないのか不思議でしょうがない問題の1つに、昇圧ICを可聴域より遥かにに上の帯域で動作させるという方法があります。これだと昇圧による電源ノイズをそもそも聴こえなく出来るので良いですよ。秋月さんとかに10Mhzぐらいで動作できるICがあります。

ちなみにですが、この手の昇圧回路はコッククロフト・ウォルトン回路という結構有名な回路を基にしています。

自作スタンガンとかで有名なので、やんちゃな工学系男子は作ったことがあるかもしれませんね。

ちなみに私は中学の時学校で作って動作確認していたら滅茶苦茶怒られた記憶があります。良い子の皆さんは絶対真似しない様にしましょう。

それで、このコッククロフト・ウォルトン回路ですが、セミプロでさえ勘違いしている技術なのでネットで出回っているレイアウトはあまり当てにしない方がいいです。上記のレイアウト図の回路もよろしくない回路です。

昇圧部のコンデンサの容量は等差数列にしなければいけませんが、レイアウトのは全部同じですからね。

長くなってしまうので今回は割愛させていただきますが、こういう感じの回路であるとだけ認識していただければ結構です。

昇圧すると何が起こるか

本題ですが世間一般には音が太くなる、ヘッドルームが広くなる、などと言われているようですね。

ですが回路的にはどうでしょうか。実際ギター中、上級者、機材大好きな方、分からず昇圧している方も多いと思います。

ここからはガッツリめの回路の話になるのでご容赦ください。多分初見でも理解は出来ると思います。

中間電圧

電源の話なので電源回路について予備知識として書きます。

回路はオペアンプを使っていれば何でもいいんですが、ポピュラーなTS-808の回路図にしましょうか。

回路図のパワーサプライと書いてある回路がありますよね。ここが電源部なんですが部分的に拡大してみましょう。

D8は逆接続防止用、C17,C16はノイズ対策なので無視して大丈夫です。

するとR33とR32が残るわけですが、これは分圧回路といって確かJan Rayとかの記事でも解説したと思います。

名前の通り電圧を分けている回路で、電源からの抵抗と、0VのGNDに繋がった抵抗の間から電圧を取り出すという回路です。この回路だと9Vを10kと10kで分けているので二分の一の4.5Vですね。回路図にも書いてあります。

これは比率の話なのでR33とR32が47kだとしても中間から取り出せる電圧は4.5Vです。

この4.5Vは中間電圧、中点電圧、Vbなど様々な表記がありますが、回路図から察してあげましょう。

オペアンプ

次に中間電圧はオペアンプに対してどういう役割を持っているか解説します。

先ほどの回路とは違いますがTS-808のオペアンプ部の回路図です。

https://www.njr.co.jp/electronic_device/PDF/NJM4558_J.pdf

このリンクはTS-808に使われているオペアンプ、4558のデータシートです。1枚目の端子配列の箇所に4番ピンがGND、8番ピンが電源と書いてあります。

回路図に戻って、オペアンプの4番はGND、8番は電源と描いてありますね。

ちなみにオペアンプの電源は丁寧な回路図には書かれていますが、大抵は省略されています。4558含め2ユニット入りオペアンプの端子配列は大抵同じだからです。

それで中間電圧がどこで使われているかですが、R105、R109はGNDではなく矢印が描かれていますよね。この矢印は中間電圧に繋がっています。

どういう事かと言うと、オペアンプの3番、5番ピンはギター信号の入り口です。つまり信号ラインに4.5Vがかけられ、オペアンプは9Vで動いているというわけです。

プールを泳ぐお兄さんの話

Twitterでも書いたんですが、本当はおっさんを探していたんですよね。

それはそうと、プールを泳ぐお兄さんって急に何って話ですが、

この画像はよくある正弦波です。それでこの泳いでいるお兄さんですが、ギターの波形を表しています。そしてこのお兄さんは高さY、長さXの大きさのプールの中でなんと電圧がかかっている場所しか泳げません。

この画像だとX軸はGND、つまり0VなのでX軸がプールの底なのでそれより下には泳げないんです。

という事でこんな感じの泳ぎ方になるわけですね。

Vmと書かれているのは波形の振幅の大きさですが、振幅が大きいほど音量も大きいです。という事はX軸上をお兄さんが泳いでいる時音は出ません。

この波形を歪ませるとTone Benderのようなブチブチと途切れたファズサウンドになります。

それで、どうするかと言う話ですが、

ここで中間電圧を使うわけです。

先ほど信号ラインに4.5Vがかかっていると書いた通り、信号に中間電圧を与えることで4.5Vを中心に上下4.5Vの範囲で振幅させるという事です。9Vは水面で、お兄さんは息継ぎ無し縛りをしていると考えると良いでしょう。

はい、ご覧の通りお兄さんことギターの波形は4.5Vの高さを中心に振幅出来るようになりました。

お兄さんはもうピッチピチですね。泳ぎまくりです。

ちなみにこれは単電源の場合の手法なので、負電源が使える場合は必要ありません。

豆知識として4.5Vの電圧をかけることを、「バイアスをかける」と言います。アンプとかで聞いた事あるんじゃないですかね。物としてはこれと同じです。バイアスが深い、浅いなんて言い方をしますが、まるで水中みたいじゃないでしょうか。

昇圧すると

もう分かりますよね。18Vに昇圧すると9Vだった水面は18Vに、中間電圧は9Vになります。

これがヘッドルームが広くなる、という状態です。

振幅出来る幅が広がることで音が大きくなる、太くなると言えるでしょう。

ただ電圧を倍にすると音量も倍になるのかというとそうではなく、増幅率は抵抗の比率で調整するものなのでそう単純にはいきません。

クリッピング回路

ここで深く関わってくるのがクリッピング回路です。

TS-808だとオペアンプの負帰還にダイオードを入れる事でクリッピングさせています。

緑の濃い線がダイオードの設けた電圧の制限です。ここはダイオードの順方向電圧によって電位の高さが決まり、ダイオードの特性によってクリッピングの緩急が決まります。

画像のようにオペアンプの増幅では点線までですが、正弦波の先端を切り取ることでお兄さんは実線部分しか泳げません。ダイオードによって強制的にプールの水面と底を狭められたような感じですね。

ちなみにこの波形は矩形波と言って、ギターの歪んだ音はこの矩形波になります。

クリッピング回路と昇圧

ではクリッピング用ダイオードの設けた制限がギターの信号より高い電圧だとどうなるでしょうか。

そうですね。ダイオードの意味はありません。上下4.5Vいっぱいまで振幅させたとしてもクリッピングはしないという事です。これは極論ですが、よくあるのはダイオードの順方向電圧が2V以上あるのにオペアンプの振幅は2Vに満たないというものです。

勘の良い方はもう分かったと思います。

つまり昇圧すべきエフェクターは、ダイオードの順方向電圧よりオペアンプの振幅が小さいエフェクターです。

そんな設計ミスみたいなエフェクターあるのか、と思われるかもしれませんが、私がいつも言っているように市販のエフェクターはかなりの確率で設計ミスがあります。

回路を知ると、今までこんな設計ミスみたいなエフェクターを使っていたのか…となる可能性は十分あります。

話を戻すと、昇圧することで余裕のあるヘッドルームを持たせ大きく振幅させることで比較的高い電圧でクリップさせるダイオードの電圧に届かせることが出来るという事ですね。

逆に9Vの時のオペアンプの出力で十分クリッピング出来ているようなら昇圧しても殆ど意味はありません。

ちなみに順方向電圧の高いクリッピング用ダイオードとしてLEDがよく使われます。

話は逸れますが、昇圧について記事を書いて欲しいとリクエストをくださった方は、RIOTは昇圧すると音が明らかに音が変わるのにBE-ODは昇圧しても大して変わらないと仰っていました。

この場合はLEDが問題ではありません。

BE-ODの増幅率はLEDでクリッピングさせるのに十分な振幅を出力出来、比較的増幅率は高いので昇圧したところで特に大きな変化は起きません。

しかしRIOTはというと、増幅率が最小時で約10倍、最大時には約10000倍と歪みエフェクターではトップクラスの増幅率です。

この場合9Vだとオペアンプ自体がクリッピングしてしまいますが、18Vに昇圧して振幅に余裕を持たせることで少しだけ強弱のニュアンスが加えられるようになります。RIOTはあまり弾いたことがないので覚えていませんが、回路からするに9Vだとコンプ感の強い出音になります。

18Vに昇圧すればコンプ感が抑えられるので比較的扱いやすくなるはずです。

他にもバッテリー駆動とアダプター駆動どちらがいいのかと言う話もあります。

実は9V乾電池は使い始めは9Vではなく9.8~9.7Vと10V近い電圧です。一方安定化されたアダプターだと9V~9.5Vと乾電池より低い電圧です。

この程度の電圧の差だと違いはほぼ無いです。

逆にこの電圧の差で違いが出てしまうとなると設計が脆弱なエフェクターと言えるでしょう。

それより私が一部のエフェクターで電池駆動を勧めるのは電源ノイズが無いという観点からお勧めしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

かなり長文になりましたが、昇圧について大まかに理解して頂けたと思います。

記事の中で解説した例はあくまで一部の例に過ぎませんので、回路図を見なければ判断は出来ません。

それと、本末転倒な話ですが全てのエフェクターに9Vが適切なわけではありません。あくまで使い勝手の都合上エフェクターを9Vに合わせているだけで、実際には15Vが良かったり12Vが良かったりと回路によって様々です。

9Vに合わせた回路設計が出来ればいいんですが、なかなか出来ていないメーカーが多いのも事実です。

やっぱり歪みは自作が一番!という感じで締め括りましょうか(;^ω^)

最後まで読んでくださってありがとうございました(^▽^)/

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コメント

  1. アバター HT より:

    ご回答ありがとうございます。
    私の聞いた内容にプラスの知見やヒントをくれるところが本当にありがたいです。
    データシートの読み取りもここのことかな?と思っても自分でそれが正解なのかわからない壁にぶち当たっていたので、とても助かりました。
    スイートハニーオーバードライブの記事もいまもう一度読み返せば理解が深まりそうな気がします。早速読んできます!
    ありがとうございました!

  2. アバター HT より:

    ぷらむさんのブログは何度見返しても発見があったり興味が湧く内容なのでとても楽しいです!
    最近は記事を見てデータシートに興味が湧き、読めるようになろうと必死になっているところです。英語と専門用語に苦戦しております。

    この記事を読んでいて2点お伺いしたいことがあるのですが、もしよろしければご教示お願い致します。(お忙しいと思うので可能であればで結構です。)
    チャージポンプのところで記載のあったICを動作させる可聴域というのは、データシートの「Oscillator Frequency 」を見ればよろしいのでしょうか?

    それとLEDの順方向電圧は他のダイオードと比べて高いというのを見て思ったのですが、例えば順方向電圧が1Vのダイオードと順方向電圧が2VのLEDを並べてクリッピングさせようとした場合、①LED→1Vダイオードではどちらもクリッピングできるけど、②1Vダイオード→LEDではLEDの方は意味がない(カットするところがもうない)ということになるのでしょうか。

    また①の場合でも、最終的に1Vダイオードだけでクリッピングした時と同じ波形になるので、LEDは意味がないということになるのでしょうか。
    そうするとダイオードの違いよりクリッピング位置の違いの方が影響は大きいのか…などなど

    ぷらむさんの記事を読むと散りばめられたそれぞれのワードからいろんな興味が湧いてきます。
    質問しすぎな自覚はあるのでうざかったら無視していただいても大丈夫です。
    静かな1ファン読者に変わります…

    • ぷらむ ぷらむ より:

      いつもご覧いただきありがとうございます(^^
      チャージポンプICの駆動帯域についてはそこを見ればOKです。

      LEDの①については仰る通りです。それを踏まえてマッドプロフェッサーのスイートハニーオーバードライブの回路図を見るといかに滅茶苦茶な設計か分かると思います。
      ②については一概にそうとは言えない事例も多々あります。例えば、仰る条件だと1Vのダイオードでクリッピングした後増幅すればその信号を再びクリッピングすることが出来ます。
      そしてダイオードにはそれぞれクリッピングの特性が備わっています。これはデータシートを見なければ何とも言えず組み合わせによるところがありますが、例えばクリッピングの鋭さが緩やかな特性のダイオードの後にクリッピングがハードなダイオードでクリッピングすれば、最初のダイオードでクリッピングしきれなかった波形をクリッピングさせることも出来ます。
      勿論特性によっては全く意味を成さない場合もあります。

      ダイオードの違いよりクリッピングの位置の方が影響が大きいのは確かにそうですが、上記のようにダイオードの違いによる特性の違いもあまり無視できない要素と言えますね。

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