【回路解説】Suhr Riotの自作

Suhr Riot

前回の製作編に続き、恒例の回路解説編です。巷では回路解説を楽しみにしている方がいるという噂もありますが、真偽のほどは不明です。

一応回路が全く分からない方にもある程度理解できる内容となっているので、自作前に目を通す事をお勧めします。

回路図

いくつか回路図が出ていますが、今回はパーツが省かれた感じの少ないこちらの回路図で進めていきます。

全体的にはよくあるオペアンプの増幅回路と、ケンタウルスのように負帰還内ではなく信号ラインからGNDに向かってクリッピングダイオードを入れクリッピングしている、というような回路です。

それでは入力部から解説していきましょう。

入力部・増幅回路

まぁ入力部というか、いきなり増幅回路ですよね。早速ですがバイポーラオペアンプに直繋ぎはよろしくないので、トランジスタなりFETなりでバッファ回路を設けた方が良いでしょう。ライオット自体そもそもハイゲインなので、こういった回避不可能な雑音は減らしておくべきです。

まずはR1。これはトゥルーバイパスではお馴染みの、スイッチ切り替え時に発生するノイズを抑える役割です。2.2Mは手持ちに無いということなら1Mでも大丈夫です。

続いてC1は回路にどの程度の音域を通すか決めるものです。容量を増やすほど低域は増えますが、R2が470kΩと大きいので全帯域を通します。容量を増やしても特に変わりません。減らすと低域が削れていきます。

R2はオペアンプの信号ラインにバイアスを与え、ギターの信号が振幅出来るようにしています。分かりやすく例えてみるなら、魚が上下に泳げるようにするには当然水位を上げますよね。ギター信号も振幅するには上下の高さが必要なので、この抵抗を介して電圧を与える事で振幅出来るようになっているという感じです。詳しくは電圧についての別記事で解説しているのでご覧ください。

R3は発振防止のおまじないみたなものですが、まぁライオットならあった方が良いと思います。

C2はJan Rayでもにたようなのがあったのは覚えていないでしょうか。ラジオなんかの無線が検波されないようにするちょっとした工夫です。しかし回路図を見るにこの通りの配置なら、Suhrか回路を描いた人、またはその両者は意味を理解していないようです。つけるならインプットジャックにでも直付けしてしまってください。

そろそろ回路図が遠くなってきたと思うのでもう一度回路図を貼っておきましょう。

R3を通った信号はオペアンプの3番ピンに入ります。

C3は発振防止だったり、次段に送る帯域を決めていますが、好みで変更してOKです。変えるなら変更前の容量の倍程度ずつ増減した方が良いでしょう。少々増減した程度ではあまり変化は分かりません。

R4と可変抵抗の100kBは増幅率を決める抵抗です。この部分では可変抵抗がMAXの時、

100kΩ/1kΩ=100倍

GAINを最小にすると1倍のバッファとなります。

それである程度回路を見てきている方なら感じる違和感、あれ、オペアンプの1番ピンに繋がないの?と思うかもしれませんが、これは次段の歪み回路に関係してきます。

C4はR4とフィルタ回路になっています。歪ませる帯域を決めるものですが、よくMODで変更される部分でもあるので、自分好みに改造してみたい方はC4に並列でコンデンサを繋ぎ、GND側をスイッチで切り替え出来るようにすれば簡単にMOD出来ます。まぁあまり増やしすぎても低域がボワつくので、程々にしておきましょう。

歪み回路

サウンドの肝となる歪み回路です。

初段のオペアンプから出力された信号はC5とR5を通ってオペアンプの6番ピンへ。しかし初段とは違って反転増幅回路になっています。

この部分の増幅率はR6の1MとR5、そしてGAINの100kBの右側の抵抗値で決まります。右側?という疑問にお答えすると、本来GAINが無ければR6とR5で増幅率は決まります。式にすると

1000kΩ/10kΩ=100

しかしC5の左側には100kの可変抵抗があるので、この抵抗値も合わせて考える必要があるという事です。

回路図に〇で書き込んでみました。要するに可変抵抗の↑で分けられている抵抗の右側はR5と合計して計算する必要があります。ということは右に振り切ればR5のみ、真ん中なら半分の50kΩとR5を合計して考える事になります。

それではこの部分の増幅率を考えてみましょう。式は、

R6/(R5+100kBの右側)=増幅率

となります。

GAINがMAXだと、

1000kΩ/(10kΩ+100kΩ)=9.09

なので大体9倍の増幅率。

GAIN最小では、

1000kΩ/(10kΩ+0Ω)=100

という事で100倍になります。

ところがどっこいトータルの増幅率は前段と合わせて見る必要があります。しかも100kBは二つあるオペアンプどちらの増幅率にも関わっていると来ました。

少し整理してみましょう。

GAINが0Ωの時初段では1倍、次段では100kΩ+10kΩとなるので9倍。

つまり1×9で最小ゲインは9倍となります。

ではGAINが100kΩの時はというと、初段では100倍、次段では0Ω+10kΩとなるので100倍。

最大ゲインは100×100で10000倍と、とてつもない増幅率です。個人的にここまで高いとゲインを上げるセッティングはするべきではないと思っています。Riotもあまりゲインを上げない使い方を想定しているのではないでしょうか。2~3時あたりまでが限界でしょう。

ちなみに100+100で200倍なんじゃないの、と思ってしまいそうですが、あくまで倍率の話です。小学生の頃理科のテストで、顕微鏡の接眼レンズが10倍、対物レンズが40倍だと倍率は何倍ですかというような問題が出たと思いますが、50倍ではなく400倍ですよね。同じく回路の増幅率も、増幅回路が重なると掛け算になります。

なかなかややこしいかもしれませんが、結論としては9倍~10000倍まで増幅率を変えられますよという事です。

入力部の項目で書いた違和感については、可変抵抗一つで増幅率を大幅に上げる工夫だったということですね。同じく入力部でノイズについて口うるさく(いつもの事ですが)言っていたのは、この過剰とも思える増幅率のおかげでTS系等であれば気にならないレベルのノイズも大幅に増幅され無視できないレベルのノイズになってしまうからです。

次はクリッピング回路です。

増幅された信号はC7とR7を通って、下のダイオード達でクリッピングされます。ここで私好みの工夫がされているんですが、R7やR8,R9でクリッピングの特性を変えてあります。

この抵抗は大いに弄り甲斐があるでしょう。

自作なのでダイオード達も色々試行錯誤してみてください。この値が自分にとっての最適解とは限らないはずです。

しかしスイッチ回路は戴けません。まぁ色々意図があることは察せますが、GND側のスイッチ切り替えのみで対応できるものです。

そして本家も電力用スイッチでしょうから、微弱信号用スイッチにしたいところです。まぁ入手性を考えるとロータリースイッチが現実的でしょうか。

自作慣れしている方なら容易い改良です。本家と離れてしまうのはちょっと…と思うかもしれませんが、自作なのでむしろどうやって本家と違う設計にしてやろうか、という方向で考えてみてください。良い部分はそのまま採用すべきですけどね。

問題点を挙げるとすると位相についてです。反転増幅回路は元の位相と逆になってしまうので、位相を楽に切り替える方法が無いなら正相出力に直しておきたいところです。

トーン回路

さして難しい回路ではないと思います。正確な特性は回路シミュレーションソフト等で確認すると良いでしょう。

まずTONEと書かれている10kの可変抵抗と、その前にあるR7とC8でハイカットフィルタが形成されています。相当ハイゲインな回路なのでハイカットは必須でしょう。

皆さんも計算ツール等で計算してみてください。

TONEとC8の部分では、可変抵抗が10kΩの時の極は691Hz、0Ωでは15392Hzが極になります。

そしてカットされた信号は、R10を通って更にR11,C9のフィルタ回路を通り、次段へと流れてゆく仕組みです。

出力回路

ただのバッファ回路です。

R12でバイアスをかけてバッファとして機能しているオペアンプを通り、可変抵抗で分圧して信号を取り出して、信号回路は終わりです。

一応C11について、ここまでの容量が必要無いことは自作慣れしている方なら一目瞭然です。1μFで十分なのでフィルムコンデンサが使えますが、もしこの後にFuzz Faceのような入力インピーダンスが極端に低いエフェクターを繋ぐ場合、極性ありのケミコンを使いましょう。

R13は次に繋ぐ機器から電圧がかかった時の保護用です。

少し回路を変更することになりますが、Volumeの可変抵抗の後にバッファの方がローインピーダンス出力の面で良いですね。まぁRiotは10kAというインピーダンスに配慮した抵抗値を採用しているので、私のように神経質でも無ければ拘らなくとも大丈夫です。

電源部

さて最後はRiotの問題点である電源回路についてです。

よくある分圧回路ですね。中間電圧には余ったオペアンプを使ってバッファにし、ローインピーダンスにしていますが、他と比べて仕組みに大差はありません。

まずそもそもの話ですが、9Vでは使いにくいエフェクターです。これほど増幅率が高いとオペアンプでのクリッピングが起こりやすいんですが、Riotではゲインを12時以降にすると確実にオペアンプでクリッピングしてしまいます。

Riotのレビューは見ていないので分かりませんが、コンプ感が強すぎるという感想が多いのではと思っています。それもそのはず、12時以降ではオペアンプそのものがクリッピングしているので、言ってしまえばコンプレッサーそのもの。ピッキングで強弱など付けられません。

18Vに昇圧するとやや動作に余裕が出ますが、それでもやはり厳しい動作です。

そしてノイズ対策についても、47μFというのはかなり心もとないです。低品質なアダプタではノイズが気になるでしょう。分圧回路も47μFであることを考えるとオペアンプにとっても不都合が生まれます。製作編でも指摘しましたが、220μF程度に増やし、抵抗も加えてCRフィルタとしましょう。この点についてはかなり重大なミスです。

最後に中間電圧のバッファについて。ローインピーダンスにしておこうというのは良い心がけです。しかしバッファの出力を各バイアスを与える抵抗に直結しているのは問題で、オペアンプの発するノイズを電源ノイズとして見ると、決して小さくない大きさです。

ここにもフィルタ回路を追加すべきです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

構想自体は悪くないと思いますが、私が設計し直すと相当な変更になってしまって元のRiotとはだいぶ違った歪みになりそうです。

電源という根本的な問題があったり、ちらほら抜けたところがありますが、ギターメーカーのエフェクターと考えるとなかなか構想は出来ているエフェクターではないでしょうか。

一応書いておきますが、オペアンプの差し替えなんて事はしないようにしましょう。Riotに使われている4580は常識的な選択です。ここで4558やらを使わないあたりも、一応データシートには目を通し回路についても理解していそうだと分かります。

まぁ最後まで読んだ方はRiotの設計者以上にRiotに詳しくなっているでしょう。

最後まで読んでくださってありがとうございました(゚ω゚)ノ

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コメント

  1. アバター 匿名 より:

    80年代のMarshallガバナーの値を変えてクリッピングを変更できるようにした感じですかね。

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