さて、お待ちかねの回路解説編です。
前回はネットで出回っている回路図や基板レイアウトを解説しましたが、実際のところ回路図が間違っているのでちゃんと動作しません。
音は出るけど何かおかしいと思ったら参考にしていただければと思います。
回路図

とりあえず検索して一番上に出てきた回路図です。
ステージで分けられているので丁度いいですね。
入力部

R1はいつものスイッチ切り替え時のポップノイズを軽減する抵抗です。
C1は回路に通すギターの帯域の量を決めています。ここが大きいほど低域が通ります。ディストーションなのでかなり歪むことを考えるとあまり低域を通しすぎるのは良くないかもしれませんが、改造ポイントではあるので色々試してみる価値はあります。ただ低域まで歪ませてしまうと音がボワつきます。
R2はよく矢印で書かれていたり、Vbと書かれていたりするやつですね。この回路図では丁寧に4.5Vと書かれています。オペアンプの入力前にバイアスを与えて音が振幅出来るようにしています。これについては昇圧の記事とかで書いているのでご覧ください。
R3とC2はフィルター回路になっていますね。ここにフィルター回路があるのは結構珍しいです。極は16kHz、耳障りな高音域をカットしているようです。漢のエフェクターというイメージですが、回路は結構繊細ですね。大抵R3のみで、突入電流からの保護用です。
という事でこの辺はあまり弄るべきではないと言えます。
歪み回路

ここもオペアンプの増幅回路なので他の歪みエフェクターと代り映えはしませんね。
強いて言うならR4,R5,C5,C6の部分でしょうか。
さて、まずはC3ですがオフセットに30pFが入っています。データシート通りにしているようですがこの程度ではあまり影響は無いでしょう。
寧ろ開放の方が良いですかね。
この頃はまだエフェクターは黎明期なので知り合いにギタリストがいるから回路の知識は無いけどエフェクターを作って渡していたというのはざらにあった時代です。RATもそんな中の1つでしょう。
C4は発振防止用です。増幅率が高いので100pとそこそこ大きめの容量です。
毎度のごとくオペアンプの真横に配し、セラミック、もしくはマイカコンデンサを使います。
可変抵抗は100kAなので指数関数的に歪みを調節しているようですね。人の感覚は指数関数なので悪くない選択ですが、Bカーブにしてみるのもありです。
R4,C5は中域、R5,C6は低域の周波数特性に関わるものです。増幅率は2300倍程度ですかね。TS系なら大抵500倍なので如何に高いか分かります。ですがこの後のダイオードでクリッピングされ振幅が抑えられるので実際の出力は小さくなります。
この部分を改造するのはなかなか難易度高めですが、良い結果が得られる可能性もあります。
オペアンプはLM308という比較的ノイズの多い古いオペアンプです。わざわざ性能の悪いオペアンプを使う必要性も無いですし、最近の汎用オペアンプを使うといくらかノイズの改善が見込めます。
前回の記事でも書きましたが2ユニット入りにすれば出力のFETを略せます。
D1,D2はケンタみたいにオペアンプの出力後にクリッピングしていますね。ここは改造ポイントです。ショットキーバリアダイオードやLED、その他色々のダイオードに変更すれば増幅率を変えた時のクリッピングが変わってきます。
トーン回路

とてもシンプルですね。ただのCRフィルターで、Jan Rayとかもこんな感じです。
トーン回路にしては抵抗値が高めなので、低抵抗にすればいくらか熱雑音は改善されますかね。
R7を調節すればトーンを絞り切った時のカット具合を決められます。
C8は単純に好みなので色々試してみると良いでしょう。スイッチを設けて並列にコンデンサを繋いでトーン切り替えスイッチとするのもありです。
出力部

まあおかしいですよね。FETの入門書しか読んでないレベルでも気付けるのではないかと思いますが、どうなんでしょう。2ユニット入りを勧めるのはこれが理由でもあります。
とりあえず出力バッファという事になっていますが、バイアスがちゃんとかかっていないので信号が欠損していまします。要するに音が小さくなったり、本家のRATと比べると音の質が少し違うといった現象が起こります。
まだVbに1MΩを繋いだ方がいくらかマシです。これで作ってしまった方はVbに繋ぎ直してください。
直すならFETのゲートには4.5Vをかけなければいけないので、9VからFETのゲートに1MΩを繋ぎます。
あと全体的に信号ラインに電解コンデンサが使われがちですが、フィルムコンデンサにした方がノイズが改善されます。
この頃は1μ以上のフィルムコンデンサともなればサイズが大きく値段も安くはなかったですからね。妥協ではないですが、値段や入手性と折り合いを付けた結果です。
ただし昔のエフェクターを使いがちな方はここは電解コンデンサのままにしておいてください。
電源部

最後は電源部です。47Ωと100μで電源ノイズのフィルターとしていますね。ただ個人的にはもう少し強化したいところではあります。電池駆動専用なら大丈夫ですが、スイッチング電源の多い昨今これでは不十分です。
C12は電源のインピーダンスを下げています。
R11,R12はお馴染みの分圧回路です。ただ中間電圧のC13の容量が少なすぎますね。時代のせいでしょうが、今は電解コンデンサなら数十円で手に入るので47μの電界コンデンサにしておくとノイズが改善されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
個人的に男気溢れる回路かと思いきや結構繊細な回路だったなぁという感想です。
ですがシンプルな回路には変わりないので、改造したり自作の練習にはトップクラスでお勧めです。
ちなみに回路のおかしな部分は解析された方のミスである可能性が高いです。実機の方は多分大丈夫だと思いますが、見ていないので確かな事は言えません。
検索した時にこれも出てきたんですが、自作でも数千円かかることを考えるとだいぶ安いですよね。人気エフェクターなだけあって破格の安さです。ケースが欲しければこれの中身抜いて作るのもいいですよね。塗装とかの手間を考えれば私なら買います(;^ω^)
最後まで読んでくださってありがとうございました(^^
コメント
はじめまして。最近自作をはじめ、色々な記事を参考にさせていただいています。
こちらの記事を参考にしてエフェクターを作成したのですが、他のエフェクターよりもホワイトノイズが出てしまい悩んでいます。
ダイオードやオペアンプなどを変更して作成したのでそちらが原因なのかもしれませんが、ぷらむ様の意見をお聞きしたくコメントさせていただきます。
自分ではダイオードをショットキーダイオードにしたためにギターの音が小さくなり、相対的にノイズが出ているのかと考えているのですが、他にもノイズの原因となりそうな部分があればお教えいただけると幸いです。
ご覧いただきありがとうございます。
ご質問について、ダイオードは回路図中のD1,D2のクリッピング用ダイオードを交換されたと想定します。
元のダイオードは1N914となっており、順方向電圧は0.7V程度。
D1,D2をショットキーバリアダイオードに変更すると、音量感を1N914に合わせようとゲインを上げるに従って雑音も増幅され、S/N比が悪化することは有り得ます。
原因究明には、D1,D2をソケット化して交換することで確認することが確実となります。交換後ははんだ付けするようにしてください。
また、オペアンプを変更されたとのことですが、エフェクター向きではないオペアンプを採用すると、元々ハイゲインでノイズっぽくなりやすいために更にノイズが増加することになります。
文量が多くなるため詳しくは省きますが、低域で数百倍、高域では数千倍というような増幅率に達するものを大胆に歪ませると耳障りな高調波が生まれる原因になります。
これに付随して、増幅率の高さから小さなノイズの影響を受けやすいと言えます。配線不良や、GNDのリターン電流の経路が長くしない、ループ状にならないようにするなど、注意されてください。
単体のエフェクターでは問題になることは少ないですが、あまり不適切な配線をするとホワイトノイズが出てくることがあります。
詳細な返信ありがとうございます。
ご指摘いただいた点について確認してみます。
オペアンプについて、今回LM6365MXというものを使用しましたが、エフェクターに適したオペアンプの選定やその周辺の回路の設計について(バイアスをかける抵抗の値やバッファの有無など)あまり理解できておらず、もし機会があれば改めてそのあたりについてのお話も伺ってみたいと思っております。
長々と失礼いたしました。お返事ありがとうございます。
もしかすると、オペアンプを変更するだけで改善するような気がします。万が一そうでなくともRATには向かないオペアンプです。
RATに使われているオペアンプは古いもので、最近のオペアンプに比べると低速です。一方、LM6365シリーズは高速かつ、広いゲインバンド積を持ちます。
これは高速信号処理や高速センサに使われるもので、そこまで速度は必要なく、エフェクターでは低速な方が向いています。ユニバーサル基板で作ってしまうと配線の冗長さや、電源回路など、厳しく要求されます。
またLM6265は、エフェクターでよく使われるオペアンプに比べて極めて入力バイアス電流が大きく、LM6365Mでは最大で6μAとあるためRATでは6Vもズレてしまいます。最悪無信号時でも飽和してしまいます。
LM308が手元にあれば回路そのままか、TL072シリーズなどに置き換えてみてください。
再びの返信ありがとうございます。
なるほど、そうなのですね。
なんとなく高速なほうが良いのかと思い採用してしまいました。
入力バイアス電流に対応するため入力部にバッファを加えてR2を100kに変更したりはしたのですが、それだけではなく他のところにも配慮が必要なのですね。他のオペアンプに置き換えてみます。
オペアンプを変えたところノイズがかなり減りました。
残りのノイズもダイオードを変えて試すとかなり抑えられたため、仰っていたことが原因のようです。
色々とご教授いただきありがとうございました。勉強になりました。
いつも興味深く拝見しております。電源の分圧抵抗について質問させてください。
記事中ではC13を上げるとのことでしたが、これはローパスフィルタのカットオフを小さくするためで、R11(付随してR12)を大きくしても同じ効果と認識してます。
抵抗を大きくしない理由、ひいては分圧抵抗値の決め方についてもよろしければご教授いただけないでしょうか?抵抗を大きくすると熱雑音が大きくなるのでこれを嫌っている?と予想していますが、ヒントでもいただけると幸いです。
ご覧いただきありがとうございます。エフェクターの設計ではキーワードとなる熱雑音への配慮、熱心に勉強なさっていると拝察します。
アナログ回路の中点を作るための分圧抵抗値の決め方、という話に限っては、ほとんどの回路設計者はそこまで細かく考えないものです。
他に考えることが沢山あったり、分圧抵抗値は手元にある数十kΩから数百kΩを採用しても、その接続先があまり電流を吸い込まないことが何となく把握できていていれば、十分なマージンがあると判断できるわけです。極端な話ですが、50mA消費するエフェクター専用に、ちょうど50mA出力の電源アダプターを用意するか?と考えると、あまり議論する意味がないことはご理解いただけると思います。
特に、このエフェクターで採用されているオペアンプは、吸い込む電流が少ない高精度オペアンプです。しかし、古いものであるため、雑音性能は決して高くありませんから、熱雑音など気にしてもしょうがないものです。
電源ノイズの観点や取り回しから乾電池駆動をすると、分圧抵抗を大きくすることで余分な電流を増やさないことは、省電力の観点から有効と言えます。
近年の低雑音を確保するために多めの電流を流すオペアンプでも、500nAより少し上。仮に1mAのマージンをとっても大きすぎると言えます。
最も避けるべきは、分圧回路でのノイズ除去が不十分で、信号経路にノイズが入ってしまうこと。自作される方の電源品質までは把握しきれませんから、C13が十分に大きければ分圧抵抗を手元にある抵抗から採用しても問題なくなります。
もし自作するなら、バッファを設けたり、最近の低雑音オペアンプを採用したくなります。すると、分圧抵抗値を低くして熱雑音に配慮する回路設計的な気遣いも意味が生まれてくるでしょう。
手に入りやすい10kΩや47kΩに、47μFの電解コンデンサという組み合わせでも、多くの場合問題となることは少なくなります。
詳細にご回答いただきありがとうございます。どのお話もとても深くなるほどと思わされました。バイアスまわりだけでもこれだけの深い知識をお持ちであること、とても尊敬いたします。
分圧に限らず、優先度や調達など様々な設計上の都合が市販品の回路には含まれていることを踏まえて回路を見てみると、新しい発見ができそうな予感がしてます。なによりそれを改良できるのが自作の面白いところと再認識できました。改めて回答いただきありがとうございました。