今回は久々の製作日記となります。
製作したエフェクターは、タイトル通り2in1エフェクターですね。
当初は2台をお借りし、解析した上で1から作り直すというようなご依頼でしたが、表面実装であることや、解析の手間、製作の作業量など考えると現実的ではない値段になってしまうため、実機の基板をそのまま採用するというような作業となりました。
一見簡単そうですが、色々と大変な作業のエフェクターでした。
内蔵するエフェクター
こちらがお貸しいただいたエフェクターです。
Darkglassは有名なベースエフェクターメーカーです。値段的にはブティック系になるのかなと思いますが、ベーシストなら所持している方も多い人気なメーカーですね。
一方、Pike Amplificationは存じ上げないメーカーでした。こちらもDarkglassと同じような価格帯ですから、ブティック系ペダルになりそうです。
ところで、この2機種はどちらもモーメンタリ式のフットスイッチですね。踏んだ時、ガチッとなるのがオルタネイト式のスイッチで、多くのエフェクターではこちらが採用されています。
モーメンタリ式にも種類があり、若干ガチッとなるスイッチも多いんですが、踏んでいる間だけ接点が触れ合うようなスイッチは、カチャカチャというような軽い踏み心地なっています。
このエフェクターはどちらも、後者のカチャカチャという踏み心地でしたから、接点が触れ合うだけのモーメンタリスイッチです。
ブティック系としては意外でした。
多くのブティック系ペダルでは、配線が簡単なことから、接点での音質劣化と引き換えにトゥルーバイパスを採用しがちです。
もっぱらオルタネイト式スイッチが採用されます。
しかし、モーメンタリ式スイッチは、BOSSなどが代表的ですが、電子式スイッチの切り替え回路を動作させるためのパルス出力用スイッチとして採用されます。
電子式スイッチを採用しているということは、一定以上の技術水準、接点での音質劣化への知識があり配慮がなされているということです。
ブティックペダルメーカーではよく見られる、電子工作好きなギター、ベーシストが設計したエフェクターではなさそうだな、という印象を受けました。
ここで私は2in1にする上で、一抹の不安を覚えます。なんでしょうか、予想してみてください。
内部基板
こちらが基板の画像です。表面実装ですね。(スイッチ含め、信頼できるメーカーだと感じます)
確か、PIKE(以下略称)にはエフェクト切り替えにデジタルICが使われていて、DarkglassにはフリップフロップICが使われていたと思います。
BOSSではリード部品でフリップフロップ回路を作っていますが、DarkglassはICで作っているというわけです。
しかしながら、スイッチの押し心地の時点で感じていた予感が的中してしまいました。
切り替え方式は2つの端子を触れさせると切り替わるという回路なので、仕組みは同じようなものですが、使われているICが違うということは、これらを1つのスイッチで制御するための制御基板の設計が必要になります。
一筋縄ではいかなそうですね。
ちなみに、ご依頼内容の一つにトゥルーバイパスで、というご希望がありました。この2機種は、エフェクトをかける回路、電子式スイッチとバッファ回路を通過したスルー回路を切り替えるような仕組みになっていますが、当然トゥルーバイパスですから、スルー回路は別で用意する必要があります。
裏蓋を開けたところで、大方の設計方針は決まりました。
ケースなどの加工
今回のご依頼では、ケースは黒色に塗装、天面にべっ甲のプレートを張る、フットスイッチはモーメンタリ式で、というような内容でした。
ダイジェストでお送りします。
まずはケースの塗装から。
ケースサイズはhammond 1590XXという、BBサイズより二回りぐらい大きなサイズです。BBサイズでも詰め込めばはいらないこともない気はしますが、制御基板なども含めるとこのぐらいのサイズが適当だろうと思います。
XXサイズは塗装済み品が見当たらなかったため、自分で塗装するしかないようです。
400番ぐらいの荒い紙やすりで表面をならして、メタルプライマー、黒色アクリルスプレーという手順です。
次にべっ甲の加工ですが、商品画像では綺麗な見た目でしたが、かなり傷の多いものでした。
べっ甲は取引が禁止されて久しく、こうして普通に購入できるべっ甲プレートは、傷が付きやすく熱にも弱い、溶剤耐性も低いセルロイド製ですから、仕方のない部分はあるかもしれません。
横方向の傷はかなり深かったです。
表面の処理はご依頼内容にありませんでしたが、鏡面とまでは言いませんが、傷消し程度の処理はしておきました。おせっかいですので、作業工賃などはいただいていません。
前述の通り、傷が付きやすく熱にも弱いため、電動工具での加工難易度は高めな部類ですが、結構綺麗な仕上がりになったと思います。
まぁそんなことはどうでもよく、やることは山積みなので、もたもたしている時間はありません。
切り出しは、電動工具だと熱を持ってしまって変形してしまいますから、手作業です。これも大変ですね。
べっ甲は上品な材ですから、仕上がりも上品でなければなりません。断面のバリ取りと、ヤスリがけも入念にしておきましょう。
穴あけ加工時の画像は撮り忘れていました。こちらは、ボール盤でドリルビットサイズを徐々に大きくしながら、熱を持たないように気をつけて加工しています。
切り替え制御回路の設計
当工房の企業秘密的な部分もあるので、お見せできないところがありますが、このように切り替え回路の一部を動作テストしています。
ブレッドボードはこういった動作テストには必ず必要になりますから、4、5枚は持っておくと便利です。
流石にここまで配線を引き回すと発振してしまいますが、このぐらいの基板サイズにおさめて作ると発振しません。
発振やノイズ設計については教科書通りにいかないことの方が多く、経験則による部分も大きいです。
計算式で求めることも可能ですが難解ですから、ある程度見当をつけて、問題なさそうなら作ってみる、という流れです。
電子式のスイッチ回路は一定レベルの設計力が必要になりますし、普通の工房ではお断りされてしまいそうですね。
また、今回は電子式スイッチなのに接点による劣化を極限まで抑えたトゥルーバーパス回路を実現していますから(こちらも企業秘密ですが、ブログネタとしていつか紹介するかもしれません)、当製作所の本領であると言えそうです。
そういえば、切り替えスイッチについて、PIKEはこのようなよくあるモーメンタリ式のスイッチでした。ギャレットオーディオさんでも扱いのあるスイッチです。
一方で、Darkglassはこのように、フットスイッチにバネを取り付けて、電子回路的なスイッチとしては単純な押しボタン式のスイッチでした。LINE6などでも採用されているようなスイッチですね。アクチュエーターフットスイッチなどと呼ばれるものです。
どちらがどう、とは評価しにくいところですが、押しボタンの価格は数十円、フットスイッチ部分の価格が抑えられるなら、Pikeのスイッチより原価は抑えられるかもしれません。また、Pikeのスイッチはおそらく電力用なので、信頼性の面でも有利と判断した可能性はありそうです。
完成へ
活動再開から最初に作ったエフェクターとなりました。良い仕上がりになったと思います。
内部基板で使われている二種類の切り替えICを確実に立ち上げるため、最初の起動に数秒時間が必要ですが、それ以降は普通のエフェクターと同様に使えるため、実使用上で問題になることは無いかと思います。
後から気になって調べたのですが、PikeとDarkglassはやたら基板が似ているなと思っていたら、過去にDarkglassのエフェクターの生産に関わっていた方が創業したメーカーのようでした。
創業者が、Darkglassのエフェクターに手を加えたいと感じることがあった、基板など在庫の行き先に困っていたことも創業した理由の一つ、というような記述も見かけたため(うろ覚え)回路としてはDarkglassのエフェクターをモディファイしたような回路になっているのかもしれません。
基板の寸法もほぼ同じでしたから、生産していた当時のデータをそのまま持ち出して流用すれば、設計技術的なハードルをほとんど無視して、高性能なエフェクターを作るメーカーとして創業できそうです。
配線材やジャック類もそっくりでしたから、ほとんど生産を引き受けていた当時の部品を流用しているのでしょう。
消費者からするとあまり関係のないお話でしょうか。
まだ依頼が残っていますし、多忙な日々を送っておりますので、このあたりで終わりとします。
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