今回は、自作で定番となっている、Vemuram Jan Rayの回路について解説します。
トランスペアレント系、というジャンルを広めた有名なエフェクターです。
しかし、実機は4万円台と、強気な価格設定です。
現在はハンドメイドメーカー、その他多数のペダルメーカーがこぞってコピーして販売しているペダルとなっています。
特に購買意欲を唆るのが、公式から「3年間古いフェンダーアンプを研究して開発した」という宣伝がなされました。
非常に自作しがいのありそうなエフェクターに思えます。
回路図を見てみましょう。
回路図
こちらが現在Jan rayの回路として、ネットで公開されている回路図です。
出典は、海外の方がJan rayの基板を解析したようです。
VRの接続先が書かれていなかったり、回路図の書き方のマナーに則っていない書き方であるため、回路技術者というよりは趣味で自作をされている方のようです。
以前は検索すれば出典の掲示板がヒットしていたのですが、消えてしまったのか埋もれてしまったのか、見つかりませんでした。
しかし、下記サイトで国内の方が詳しく紹介されています。
基板はモールドされており、解析し辛いものだったようです。基板のモールドは、解析されて回路をパクられて(コピーされて)しまわないようにするための、物理的な防止策です。
さて、解析してみた結果はというと、Timmyというエフェクターの回路と瓜二つだった、というわけです。
引用させていただいたブログでも、「価格は品質を表す」という典型的なマーケティング戦略で購買者を錯覚させた。という翻訳がされています。
今では有名なお話となっていますが、自作を始めたばかりの方もご覧になるので、知識として持っておくとよいかもしれません。
では、回路図各部の解説に入ります。
入力部
INはフットスイッチのインプットに繋がっています。
R1は、スイッチ切り替え時のノイズを軽減するための抵抗です。
トゥルーバイパスは接点部による信号の劣化が起きてしまいますが、劣化の少ないバッファードバイパスや、BOSSのような電子式スイッチより、簡単に作れるため多くのコピー系メーカーで採用されている方法です。
自作なら、音質に配慮してバッファードバイパスに改造してみたくなります。
C2とR2はハイパスフィルタを構成しており、ギター信号の通過する帯域を定めています。
C2の47nは47nFで、秋月電子さんなどで購入する場合、μFに直して0.047μFとなります。
カットオフは3.3Hzですので、ここで帯域のカットはせず、ギターの信号は全て通しています。
R2にはもう一つ役割があり、このあとに続くオペアンプへのバイアスをかける抵抗です。バイアスについては、別記事で解説していたかもしれません。
C1は、音色に味付けをしているなどの意見を見たことがありますが、広い範囲で見ると、シールドの容量と並列です。つまり、この位置ではほとんど無意味。
取り付けるなら、インプットジャック近傍に取り付けてみてください。
歪み回路
C3は位相補償用と考えて差し支えありません。この容量だとセラミックコンデンサが入手しやすく、メーカー品ではコスト面などから、もっぱらセラコンですが、手に入るならフィルムコンデンサを使ってみましょう。
秋月さんならあるはずです。おまじないみたいなものですが、誘電ヒステリシスによる汚損はなくなります。
R4とGAINの可変抵抗は、増幅率を決める抵抗です。抵抗値を大きくするほど増幅率は高くなるため、R4は最低の増幅率を決めています。
ダイオード郡には、1N4148という小信号用スイッチングダイオードが使われています。最近のトランスペアレント系エフェクターでは多用されていますね。
増幅した信号の波形をダイオードでクリップさせることで、歪み音を生み出しています。サウンドの肝となるため、色々試行錯誤したくなる部分です。
BASS回路
BASSコントロールがあるため分けてみましたが、本来は歪み回路の一部です。
R3,R12,TRIMは合成抵抗として考えることができます。これらをRaとおくと、ここでの増幅率は、GAINツマミの抵抗値500kΩ+R4/Raで近似できます。
TRIMはGAINの動作点を調整するコントロールとして、便利そうです。
中心の5kΩが使いやすそうな点です。
トリマは高耐久のものであるに越したことはありません。普通のトリマだと、公称値200回ですからそのあたりが目安というような具合です。
可変抵抗にするのはノイズの影響を受けやすいため、おすすめはしません。
トーン、出力回路
IC1Bの出力端子から増幅した信号が出てくると、TREBLEツマミと、R5,C7からなるハイカットフィルタを通ります。
ツマミを回すほど効かなくすることで、TREBEが出てきていると感じられるわけです。
IC1Aについては、R6,R7から1倍の増幅率であるため、ここでの増幅はしていません。
C3も前段同様、発振防止用なので積層セラコンかフィルムコンデンサ系を採用してください。
C9は電解コンデンサが使いたくなる容量ですが、性能に配慮してフィルムコンデンサとしておきます。
最後は10kΩの可変抵抗で音量を調節し、出力となります。
電源部
少し違和感のある書き方がされています。解析しながら書いていったのかもしれません。
左から、V+がDCアダプタを繋いで給電しています。
D6はセンタープラスを繋いでしまった時の保護用です。
R8,C11は電源のノイズフィルタとなっています。しかしながら、D6での電圧降下が大きく、R8も大きめの抵抗値であるため、かなり苦しい電圧降下です。オペアンプへの電源電圧が足りていません。
また、C11はやや容量不足です。
C10,C6などは電源の安定化を図るものですが、コピー元であるTimmyの定数をわけも分からず変更してしまったために、1つだと回路が安定しなかった可能性はあります。
C6はなるべくオペアンプの近くに配置したいコンデンサです。C10,C6ともにESRの小さな積層セラミックが良いでしょう。エフェクターの自作パーツショップでは、最近のパーツを扱っていなかったり、データシート(電子回路を作る時、必ず見る説明書)すら見れませんから、秋月さんなどで購入したいところです。
R9,R10はバイアスを作るための分圧回路です。
ここが他のエフェクターとは異なる部分です。
普通は電源電圧の半分を作るため、抵抗値は2本とも同じ値にすることが多いのですが、Jan Rayでは4.5Vを下回る電圧になっています。
Timmyの回路図とされているものです。Jan rayと見比べるとそっくりな回路です。
Timmyでは分圧抵抗の上側の抵抗値が小さくなっています。
オペアンプにギターを直結というような回路であるため、バッファが無いのは残念ですが、各所に気を配ったであろう痕跡が見て取れます。
もし自作するなら、Timmyに近い回路で作ることをおすすめしたいですね。
Jan Rayではバイアスの抵抗だったり、分圧抵抗、増幅段の負荷が重いなど、不安定になってしまう回路設計です。
R1も大きな抵抗値にするべきところを、Jan rayでは1MΩに下げてしまっています。
詳細な解説は、下記リンクで有料のコンテンツとして販売しています。Jan rayだけでなく、自作全般に応用可能な内容です。Amazonなどでも販売されている、エフェクター自作解説本みたいなものでしょうか。気になる方は御覧ください。
予告なく公開終了する場合がありますので、あらかじめご了承ください。
あとがき
いかがでしたでしょうか。
Jan rayについては、ペダルメーカーの倫理的な面でも数多く取り沙汰されています。
回路自体に著作権はありませんの、でどうにも出来ないものです。
しかし、「古いフェンダーのアンプを3年研究して開発したエフェクターである」と宣伝しながら、「既製品の回路を分けも分からずいじってしまったような設計だった」というのはどうなんでしょうか。
今回はJan Rayでしたが、エフェクター業界ではこういう例はごまんとあります。Jan Rayは元になった回路であるTimmyの音色が好評だったこと、過剰な値段によるマーケティングが成功して有名になりすぎてしまいました。
下記リンクは海外の自作パーツショップですが、倫理的な内容にも大きな関心を寄せています。
古典絵画の模写のような研究だと考えています。という一節は、自作をするなら意識しておきたい点です。当然、改造も醍醐味ですから、慣れてきたら試行錯誤してみてください。
コメント
[…] 【徹底解説】Vemuram Jan Rayの自作 回路編工学部出身の筆者がVemuram Jan Rayの回路について解説していきます。疑惑のTimmyとの関係についても触れています。回路の勉強にもなると思うので […]