今回はブレンダーという種類のエフェクターの回路解析を行いました。
原音に外部のエフェクターのサウンドを混ぜるエフェクターです。
解析を行った経緯は、「Mosquito Blenderの設計を見直したエフェクターを作って欲しい」というようなご相談をいただいたため、実機をお借りして解析しました。
なかなか時間を作ることが難しく、大きめの回路の解析はお断りしていたんですが、小型機種ならということでお引き受けしました。
また、位相反転スイッチを切り替えると、爆音のポップノイズが出たり、ループノイズに悩んでいるというような内容でかなり切実なご相談だったということもあります。
どのような設計なのか記事にしてほしいということで、執筆する運びとなりました。
解析にあたって、回路解析の前にどのような機能があるエフェクターなのか調べました。
機種についての詳細な仕様は公式サイトから閲覧できます。こういった紹介文から回路について、設計意図なども読み取れることがあります。
気になるのはバッファについてですね。バッファは音が変わるとされている風潮があるから、音が変わらないことをあえて強調しているのかもしれません。本来、きちんと設計されたバッファなら、人の聴覚では音の変化は分からないものです。

分解・解析
裏蓋を開けた画像です。基板の左上の方に金属棒があるのが分かるでしょうか。裏蓋側の塗装を削ってあることから、裏蓋のシャーシアースを取るためと思われます。

しかし、削っている位置が左右反対ですね。これでは裏蓋のアースは取れず、機能していません。
せっかくの珍しい機構ですが、もったいないですね。
大手と言って差し支えないメーカーだと思いますが、組み上げているのは経験者ではないのではなかろうかと思います。
というのも、中国など、アジア諸国の現地で素人をアルバイトなりで雇って、一から技術指導ということはままあります。
この棒が裏蓋のアースを取っているということを理解する、そもそも裏蓋のアースとは、ということを考えると、理解していなければ裏蓋のどこを削ればいいか判断できなかったということはありえます。
技術指導が行き届いてなかったのかもしれません。
一部はんだを除去してしまっているんですが、小型化のためにフォンジャックはハンダブリッジでメイン基板と接続されています。

これは、あまりよろしくないですね。ジャックを固定しているナットが緩むと、もろにハンダブリッジに力がかかってしまって、最悪パターンごと剥げてしまいます。また、ナットが緩んでそれに気づいて締め直すと、画像で右側のジャックは奥に向かって力をかけることになるため、ハンダが割れてしまいそうです。右側のジャックははんだ付けする向きを逆にするなどの工夫があると、まだ良かったかもしれません。
細かいですが、設計者は使用者がどんな使い方をしても壊れないように心がける必要があるため、気になってしまうところです。
近年の小型USB充電器などは、コの字型に基板を組んでいたりするんですが、やはり端子での接続をしています。
分解すると、このような基板になっていました。
良くも悪くも、量産と小型化を目指した設計になっていると感じます。

部品は基本的に表面実装を使い、コンデンサ類は信号ラインであってもアルミ電解コンデンサを使っています。一方、回路規模の割になるべくカップリングコンデンサを省いていたり、DCアンプのようにしてコンデンサをあえて使わないような回路になっているようです。
量産するとなると部品1つでコストに影響するため、なるべく削減するような設計方針でしょうか。
企業が大量生産する時の話になりますが、抵抗などは、数銭なんですね。1銭が1/100円なので、円ですらないんです。しかし、何千、何万と量産するような機器では、部品1つ増えるだけで何百万円、何千万円というコストに繋がっていくわけですから、設計現場では「無くてもいい部品は削除しろ、必要以上にコストをかけるな」というように指示されるんですね。
私は個人なので、少し高くてもなるべく高性能な部品を使ったり、部品が増えてもこまめに回路設計して自己満足しているんですが、やはり自作のいいところはそこだろうと思います。
話を戻して、入力のみフィルムコンデンサが使われているのは、なんとか音質へ配慮しているのかもしれません。サウンドクオリティを気にするメーカーなら、信号ラインには全てフィルムコンデンサを使ったり、こまめにカップリングコンデンサを入れたりしてるんですが、全ての部分で使うのはコスト的に厳しかったのでしょう。サイズ的には、基板のスペースを見るに問題無い範囲です。
ところで、依頼された方はベース用とのことでした。入力のカットオフは可聴域の一桁下だったので、ベース用でも問題なく使うことができます。最近ベース奏者の方からの依頼が多く、何かあったのでしょうか。以前はほとんどがギター用だったので、不思議に感じています。
基板の拡大画像です。裏面にもパターンがあり、両面基板となっています。ループノイズに配慮したいエフェクターなのでなるべく最短で配線したいものですが、小型化のために信号ラインのパターンが往復してしまっています。

はんだ付けの品質から、SMD部品の実装のみ外注したりオートメーション化して、スイッチやジャック、入力のコンデンサなどは手作業ではんだ付けしているのだろうと思います。
LEDも砲弾型ではなくチップLEDで、筐体に取り付けた樹脂部品で光を拡散させるようになっています。
それと、基板を取り出す前はベタアースだろうと思っていたんですが、パターンで繋げて配線しています。ベタだとGNDパターンをそこまで考える必要がなかったり、部品配置の自由度も増したりして楽になるんですが、こだわりなのかもしれません。GNDパターンは、やや太めの配線幅になっています。
信号ラインのパターン引き回しは好ましくないですが、電源ラインやGND、中間電圧のパターン設計は気をつけるべき点は押さえていたと思います。
WET・DRYのスイッチはシャーシ天面に配置されているんですが、このスイッチはアウトプットジャック、リターンジャックの基板に取り付けられていました。
回路について
回路構成は、入力→入力バッファ切り替え→バッファ→DRY回路とSEND出力回路に分岐
Return→WET回路→WET回路とDRY回路のミックス回路→出力
というような構成でした。
公式サイトにも下記のようにあることから、必要十分な回路構成であると思います。堅牢さについてはハンダブリッジで接続ということもあって疑問符が浮かびますが・・

気になるBJF Bufferについては、よくあるオペアンプを使った普通のバッファでした。いわゆるオーディオ用として高く評価されているオペアンプが使われていて、圧倒的にナチュラルというのは、オーディオ用途のオペアンプを使っているから、ということなのかもしれません。
しかしこの手のオペアンプはギターやベースのようなハイインピーダンス受けに使うと、最適なオペアンプに比べ数桁ノイズが上です。そのため、エフェクターの入力段には適さないものです。
バッファOFFだと、別のFETを使ったソースフォロワ回路に入力されます。バッファOFFの場合でも音質劣化を引き起こすトゥルーバイパスにはなっておらず、また、Send/ReturnもMOSFETを使ってON/OFF処理をしているなど、できる範囲での配慮がなされていました。FETを介してGNDに落とす方法で、量産しているメーカーでは稀に見かける設計です。
小型ながら、わざわざこの回路を入れているのは良い設計に感じます。
DRY回路の出力で一般的なフットスイッチで切り替えていたり、バッファの切り替えもメカニカルスイッチなんですが、このあたりは値段を考えると仕方がないかもしれません。
BOSSのような半導体スイッチは非常にコストがかかり、高い技術力が必要になります。
バッファを除くオペアンプには4558が使われていました。エフェクターでもよく使われる汎用のオペアンプです。
パワーサプライの出力電圧である9.3V程度だと、保護回路やノイズフィルタの抵抗で、電圧降下がかなりシビアだったりするのですが、ノイズフィルタを省くことで回避されていました。
電源回路は47μFの電解コンデンサのみでした。コストカットのためにノイズフィルタを省いて、コンデンサだけというエフェクターは、100μF~220μFなど、大きめの容量を確保してなんとか配慮していることが多いんですが、それよりも少ない容量です。普通の電源アダプタは使えず、FETを使った回路もあることから十分低雑音なパワーサプライでなければノイズが気になってしまうでしょう。
そういえば依頼された方が仰っていたポップノイズについてですが、ヘッドホンで聴きながら動作確認をしていた時にそのことをすっかり忘れていて、切替時のポップノイズで鼓膜が破れるかと思いました。部品点数を少し増やすだけで対策できるんですが、残念な点です。
問題視している理由はいくつかあるんですが、無意識的に切り替えてしまうと、接続先の機器の故障に繋がる場合があります。これは、先程の設計者は使用者がどんな使い方をしても壊れないように心がける必要があるという話にも繋がります。機器の故障だけで済めばいいんですが、ライブ会場でうっかり切り替えようものなら、スピーカーに近い観客に聴覚障害を与えることになるため、私はかなり気にして設計します。設計者の設計方針とも言えなくはありません。
ライブ活動やレコーディングを頻繁にされている方からの依頼で、同じ方から10台近くポップノイズ対策のModを行ったことがあります。高価なレコーディング機材を壊したり、観客に不快な思いをさせないようにということで、気にされる方は大変気にされていらっしゃいます。
回路構成で挙げたブロック図についても、同様の機能さえ確保できれば全く同じにする必要は無いと思います。そうなるとほぼ別のエフェクターと言って差し支えないものですが、高性能化を目指せるならそれに勝るものは無いでしょう。ブレンダーならスイッチを使わず連続的に切り替えるような工夫をすれば、音質劣化や接点部でのトラブルを避けることができます。
Mosquito Blenderの回路でも大きく味付けしたりすることもなく、素直な回路設計になっていました。


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