今回は以前製作日記の方で少し紹介した、Solodallas Stormというエフェクターの自作についてまとめようと思います。
どんなエフェクターかというと、アンガス・ヤング、ヴァン・ヘイレン、エアロスミス、ローリングストーンズ、ピンク・フロイドなどなど、名だたるプロギタリスト達の使っていたワイヤレスシステムを模したエフェクターだそうです。
しかしこのワイヤレスシステム自体は知っていましたが、再現を試みたエフェクターがあったというのは初耳でした。まぁ調べないと出てこないレベルでマニアックだと思うので、普通は知らないレベルのエフェクターではないでしょうか。
実はSolodallas Stormについては、Twitterの方でフォロワーの方から教えて頂きまして、こちらのブログをということでした。詳しく書いてあるのでどうぞご覧ください。
それはそれとして、低認知度ながら自作したいという方が多いんですよね。ちょっと意外といいますか、まぁ既に売られていない故でしょうか。
あと先に書いておきますが、自作上級者向けです。
前置きはこんなところで、今回は回路図についても一緒にまとめておきます。
パーツリスト
●抵抗
- 10Ω…4個
- 2kΩ…7個
- 8.2kΩ…1個
- 10kΩ…5個
- 15kΩ…1個
- 1MΩ…1個
回路図を見るに抵抗値の種類を減らしたいのか、なるべく同じ抵抗値を採用していますね。並列にして抵抗値を作っているような箇所もあるので、パターンを簡単にするためにも普通に抵抗一本を使う方が良いでしょう。
他にも定数変更すべき箇所があるので、合わせて回路の項目で指摘します。
■コンデンサ
- 120pF…2個 セラミック
- 0.001μF…1個 フィルム
- 0.1μF…7個 セラミック5、フィルム2
- 1μF…1個 フィルム
- 10μF…8個 電解
コンデンサの定数も色々問題ありです。
★可変抵抗
- 100kB…1個
- 100kA…1個
- 1kB…1個
私推奨の改造をするなら出力の可変抵抗は変更することになります。そもそも出力側は疑問符が付くレベルでローインピーダンスなので、拡張性の観点から自作派なら変更すべきだと思います。
▲半導体
ダイオード
- 1N4007など…1個 末尾はなんでもOK
- BAT42…4個
BAT42はもう生産終了していますね。ギャレットオーディオさんには在庫があるようですが、無くなったら別のダイオードを検討することになりそうです。
オペアンプ
- 4558P…1個
- LM386N-1…1個
さて、なぜエフェクターにパワーアンプICを使うんでしょうね。おおよそ伝送システムにパワーアンプICが使われていたから雰囲気だけでも似せようとした、とかそんなところだと思いますが、こういうのはエフェクター界隈ではままあることです。特にメリットはないので性能的にも普通のオペアンプが良いと思います。
▼フォトカプラ
- NSL-32…1個
これはもう本当に売ってないやつですね。普通の電子部品通販サイトでは手に入らないと思います。
こんな時はマルツオンラインですよね。検索してみると、取り扱っています。(マルツの回し者ではないです)
当分は大丈夫だと思いますが、もし無かったら代替品を検討するか、硫化カドミウム素子とLEDで自作するしかありませんね。
その他ケース、ジャック類、スイッチ類、ツマミ等買い忘れの無いようにしておきましょう。
基板レイアウト
基板レイアウトって出てるのかなー…と思ったら、なんとその辺のエフェクターより出ているんですよね。ざっと見ただけでも4種類ぐらいありました。
個人的にはこれが良いかなと思います。
ですがパターンは自分で考えた方がいいですね。出来が違います。慣れている方はパターン設計してみましょう。
他にストリップボードのレイアウトもありますが、結構ミスが多いのでお勧めはしません。あと単純にストリップボードよりユニバーサル基板の方が高性能になります。ストリップボードは無駄にパターンを引き回すのでやめておきましょう。
回路図
回路図がこちらです。
回路構成だけ見れば、なかなか設計水準は悪くない方ですが定数がおかしいですよね。本気でこれをやっているなら技術レベルはこのブログを読んでいる皆さんの方が上です。
しかし回路構成から懸念しているのは、解析した方の読み取りミスです。例えばR16などは、10Ωではなく100Ωではないのか、と疑問を覚えます。
と言っても他がかなりおかしいので、杞憂ですかね。流石に10μFはないなと思います。
長くなってしまうので、今回は回路解説ではなく改善点と所見のみ書きます。改善点についてはあまり手が出しにくくなってもいけないので、簡単に出来る改造のみ紹介しておきましょう。
入力部
入力側でボリューム調整をするという、あまり見ない回路ですね。使い勝手が良いので私は結構使っています。
しかしインピーダンスの問題もあるので、中途半端な使い方ではノイズが増えてしまいます。
それから、このエフェクターをどこに置くか、という要素も加わってくるので、なかなか難しいですよね。
今回はどこに繋いでも良い方向で修正していこうと思います。
まずここにはバッファを設けたいです。可変抵抗によってインピーダンスが100kΩになりますが、これについては後のオペアンプで対策することにしましょう。
トランジスタかJFETでバッファを作り、その後100kBの可変抵抗を取り付ければOKです。
この場合バッファ回路の後にカップリングコンデンサ、可変抵抗という並びになりますが、可変抵抗をカップリングコンデンサの直流電位を開放する用と考えられるので、カップリングコンデンサと可変抵抗の間から信号を取り出す事が出来ます。
カップリングコンデンサは1μF程度とし、保護用に数百Ω~1kΩを入れれば、ケンタウルスのように別経路でスルー用回路を設けずともバッファを通した信号が取り出せます。
一石二鳥なのでおすすめです。
その他細々したところでは、C2をフィルムにしておきたいですね。
R20とC1でフィルタ回路の一種が組まれていますが、R20は抵抗値が書いてありませんね。多分メーカー側が試行錯誤の末抵抗は無しにしてジャンパ線に付け替えたという、設計あるあるだと予想しています。120pFは無しで大丈夫です。
エフェクト回路
コンプレッサーのような回路ですね。しかしこのエフェクターのコンセプト的にコンプレッサーではないので、エフェクト回路としておきます。
まず目を引くのがR5,R21ですよね。抵抗の種類を減らすためにやっているんだと思います。コストダウンの目的とかで、大量生産するなら分かりますが、既に生産終了している事を考えると果たして意味はあったのか、謎です。
ここは普通に1kΩの抵抗を使いましょう。その方がパターン設計もシンプルになります。
それから、R2の1MΩという値は設計ミスだと思います。4558Pの選別を行っているならセーフですが、多分設計レベル的にそんなことはしていないと思うので、1MΩではアウトです。
少々難解なので解説は省きますが、オペアンプの個体差によって大なり小なりバラつきというものが存在します。
そのバラつきが最大値の時、そしてIC2Bの増幅率が最大の時、電圧のギャップが5Vとあり得ない設計です。
さしあたって4558系を使うなら選別をし、なおかつR2の値を下げておかなければいけません。
個人的にオペアンプのバラつき測定をしたくなければ、JFET入力オペアンプの使用をお勧めします。
そもそも4558Pの最小駆動電圧は単電源なら10Vからだったと思うので、その時点でアウトですよね。半導体メーカーに9Vでも動作するオペアンプの発注をかけているならクローン対策ということになりますが、どちらにせよ自作するなら4558Pは使えません。
そしてまたR19の値が書かれていないですね。R19はC5にどれぐらいの速さでチャージするかを調節する抵抗です。
どれぐらいにすべきか、ですが、基本的に私のブログの回路解説での改善案は言ってしまえば机上の空論です。今回のようなのは特に経験則になってしまいますが、1.8kΩまでがいいとこだと思います。
少々の差ではあまり変化は生まれないので、元の数値の倍~数倍程度ずつ増減してみてください。
増幅回路・出力部
色々味付けがされた後、パワーアンプICで増幅し、可変抵抗で調節して出力という流れです。
とりあえず4558Pの出力からパワーアンプICまでは個性という事で置いといて、本当にパワーアンプICじゃないといけないんでしょうか。
パワーアンプICというのは本来スピーカーを鳴らすためのICですが、これはエフェクターです。
このコンデンサは~のメーカーのというオカルト的な印象しか受けませんよね。
なので増幅率だけ合わせるなり自分好みの増幅率にするなりして、オペアンプに変更し、性能を追求した方が幾分生産的だと思います。
そうすればR10,C10のような発振防止回路も不要です。
それから、出力の可変抵抗が1kΩと相当低いですが、本当にこんなに低いインピーダンスが必要なのか疑問です。
オペアンプを使えるようにするためにもここは10kΩの可変抵抗に変更し、その後にトランジスタかFETなりでバッファ回路でも付けてはどうでしょうか。
10kΩにするならギター帯域ではC11は1μFでOKです。
それからバッファの無い状態でR12は言い逃れ出来ないほど不適切な抵抗値です。ボリューム最大付近でもエフェクターで扱う電圧がかかれば普通に燃えるので、1kΩ程度にしておきましょう。
電源部
最後に電源部です。
色々滅茶苦茶をやっている回路ですね。
まずC12は付けるならもう少し大きくしてほしいところです。サイズ的に220μFが限界でしょうか。
さて、R16とC20からなるローパスフィルタのカットオフは1591Hzです。1591Hzなどもろ可聴域なので一体何がしたいのか理解不能です。カラーコードの読み間違いであることを祈りますが、もし本当なら定数計算すらしていないことがバレてしまいます。
R16は100Ωにし、C20は220μに変更しましょう。
C13,C19と同じ値のコンデンサが続いていますが、もしかして動作が安定しなかったのかもしれませんね。パターンが不適切だとそんなことになります。C13はなるべくオペアンプの近傍に取り付けましょう。それでもし動作が安定しなければやむを得ずR19を取り付けてください。
次はLEDの回路がありますね。しかしLEDは普通こんなところに取り付けません。切り替え時に流れる電流がノイズとなるので、D1の上側、9Vに直接付けて構いません。そもそもパイロットランプは音色に関わる部分ではないので、少々ノイズがあっても関係ありません。
それに関連してパワーアンプICを使うなら、これも消費電流の変動を考慮して+9Vのラインから分岐すべきです。
しかし電圧降下が大きくなりそうなので、D1はショットキーバリアダイオードにするなりして、電圧降下は抑えたいところですね。
ということで、ぱっと目についたのは以上です。また何かあれば追記するかもしれません。
一応私も贈答用でだいぶ高性能化したものを、同じような改良を施して作っていますがいい感じに仕上がっているので試してみてください。
追伸
https://aionfx.com/app/files/docs/gale_documentation.pdf
更新された回路図が出ているらしく、このブログをご覧になっている方から教えていただきました。
変更されているのは主に電源部と、2kΩが並列になっている箇所、それから抵抗値が書かれていなかった箇所です。
C1を見るに無線帯域の処理をしたかったものと思いますが、ここでは不適切です。
C1はR1の左側に付けたいもので、どうせならインプットジャックに直接付けてしまってください。
数値は数十pF~百数十pFでOKです。
C5は本家に似せるなら前の回路の容量を踏襲して良いでしょう。
しかし、電源部は全く改善されていないに等しいですね。
電源部の改善点で示したような接続先を変える改造をするなら、C12の電解コンデンサは付けたままで、D1も直列ではなく並列に入れておきましょう。その他諸々の定数も無茶苦茶なので、電源部で示した通りの定数に変更です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
実は今回この記事を書くに至ったのは、Solodallas Stormの改善点を教えて欲しいというリクエストがあったので、なら記事にしてしまおうという経緯だったりします。
まぁご覧の通り分量が分量なので、記事にせざるを得ませんよね。
とはいえ自作派ならここからが出発点です。あくまで悪い部分を改善したに過ぎませんので、私が作ったもののように高性能化するなら更に工夫が必要です。
なかなか気軽に出来る内容でもないので、紹介出来たものではありませんが、まぁ自作の楽しみである試行錯誤を邪魔することになりかねませんので、色々試してみてください。
最後まで読んでくださってありがとうございました( ・ω・)ノ
コメント
何度も質問して申し訳ありません!
電源回路で、電解コンデンサ(220uに変更)とペアのように100nのコンデンサ(セラミック?)がついてますが、他のエフェクターによってはないことも多い気がします。
高周波ノイズの除去のためだと予想しているのですが、どんなエフェクターでもつけておいた方がいいものでしょうか?
更新版回路のご確認とバッファに関するご教示ありがとうございます!
入力バッファ通過後のインピーダンスが100kΩで、それを受けれるためのオペアンプ対策がJFET入力のものへの交換と理解しました。
出力側も、長いケーブルでのハイ落ち対策として、よりローインピーダンスにした方がよいことがわかりました。
後段のパワーアンプICを2回路のオペアンプに変えたら、片方の回路を使って入力or出力いずれかのバッファを作っても良いかなと思いました。
電源の定数改善は変わらず必要ということで、了解しました!
自分がリクエストした内容をわざわざ記事にしてくださりどうもありがとうございますm(_ _)m。
その後ネットを探っていたらアップデート版が下記(p6)にありました。
https://aionfx.com/app/files/docs/gale_documentation.pdf
可変抵抗の名称が変わり、電源回路がアップデートされているように見えます。
当方電子回路設計知識乏しく、自作初級者(コピーのレイアウト数回作成経験がある程度)なのですが、下記バッファについてご教示いただけると嬉しいです。
・入力バッファについて:
「後のオペアンプで対策」との記載がありますが、どの部分が対策になりますでしょうか?
また入力バッファ追加した場合の入力インピーダンスは、boostの可変抵抗値=100kΩより上になると思ったのですが、間違ってますでしょうか?
・出力バッファについて
出力の可変抵抗を10kΩに変更した場合に出力バッファを追加した方がいい理由(というよりそもそも出力バッファを入れるメリット)を教えていただけないでしょうか?
更新された回路図が出ているのですね。
後ほど書き加えようと思います。
ご質問について、まずオペアンプでの対策は4558以外を使うということです。
記載している通り、バイポーラよりはJFET入力の方が適しているのではと思ってしまう設計です。
入力バッファ通過後は十分にローインピーダンスになりますから、ここは100kΩの可変抵抗のみで考えて近似できます。
バッファ無しでギターに直結するなら約50kΩなどといった数値になりますが、入力にボリュームが付いているものをあまり直結はしたくないところです。
10kΩに変更することでオペアンプの使用を可能にしましたが、すると今度はシールドの引き回しによるハイ落ちが問題になります。この後に機器を繋ぐにしても、ローインピーダンスで困る事はなく、むしろ雑音が軽減される事しかありません。
チューブスクリーマーやBOSSで出力バッファが採用されていますが、なるべくローインピーダンス出力にするのはハイ受けロー出しというように、鉄則です。