ご無沙汰しております。近況報告 回路解析:限定100台のエフェクター Valve caster

回路解析

ご無沙汰しております。

どこからお話するべきか、PCを起動したものの筆が乗らず、かといってこのような活動をしている身ですから、一旦ご報告という形でアップいたします。

ほぼ2年何も音沙汰なしという状況だったと記憶しているのですが(わけあってところどころ記憶が抜け落ちております)、端的に申し上げると救急車で病院に搬送されてしまい、そのまま入院生活を送っておりました。

まずは連絡も差し上げられずこのような形となってしまったことに、深く謝罪申し上げます。

前回のブログ記事を上げた段階ではほぼ退院、自宅療養に切り替えるところだったのですが、病状が悪化してしまって救急搬送、そのまま手術、一度では体力がもたないため数ヶ月かけ5度か6度の手術をしたと聞いています。

もともと持病もあったのですが、そちらも寛解していたものが悪化してしまって、生死の境を彷徨っていました。

退院したのは今年の6月頃ですが、リハビリ、療養のための引っ越し、日常生活を送れるまでの回復などでこの頃のご報告となりました。

手術が終わった段階でご依頼をいただいていたものについて、連絡差し上げられればと考えていたのですが、電子機器類の持ち込み禁止、そもそも医療測定機器を指先につけられてしまって手もまともに使えないという、なんとももどかしい入院生活でした。

一応死んでしまった際は、知人にこれらの報告、依頼で送っていただいた物の返送手続きなどを伝えていたので、最悪の事態は回避できていたのですが、それでも心苦しい気持ちでした。

しかし、よく聞く話ではあるのですが健康は何よりも宝物です。死んでしまっては元も子もないですし、よく食べ、よく寝る、しっかり運動する、日光を浴びる、これらどれか欠けると人間は精神的にも肉体的にも体を壊してしまいます。みなさんも体調にはお気をつけください。今の私は食べる、寝る、運動がほとんど出来ず、日光を浴びることしか出来ませんから、どちらかというと人間ではなく植物に近そうです。そういえば私は李を名乗っているため、そうであるのですが。

それから、主な連絡手段の一つとして利用していたTwitterですが、TwitterがXという名前になっていたり、乗っ取られていたり、原因が不明なのですが、DMが消えてしまっています。主なご依頼をいただいていた方は、アカウントを見つけこちらからDMを送ってなんとか連絡はとれているのですが、一部の方はこちらからの連絡が難しい状況になっています。

もしなにかあれば、お手数をかけますがご連絡いただけると幸いです。ここ数年のことは健忘のような症状が出てしまっていて、失念している点があるかもしれません。当サイトへの問い合わせも、昔のものは生きている問い合わせか分からないので、改めて問い合わせいただければなるべく対応します。

エフェクター製作のご依頼も、もしあれば以前よりお引き受けできる数は少なくなってしまいますが、再開しようかと思います。

ご報告はこのあたりで切り上げ、見出しにあるように、入院生活前にお引き受けしていた依頼の1つの紹介に入ります。

※ご依頼という形でお引き受けしたので、正直な感想を述べています。少しでも否定的な意見は見たくないという場合はここでブラウザバックをおすすめいたします。

回路解析:Valve breaker

解析したエフェクターはValve breaker。

Lee Custom Amplifier、 idea sound productの共同開発エフェクターとのことで、真空管エフェクターとオクターブファズの2in1という珍しい組み合わせのエフェクターです。回路的にどのようなエフェクターなのかということで解析の依頼をいただきました。

外観は赤いシャーシ、天面に絵柄を彫ったアクリルパネルが張られています。

販売価格は約5万円ほど。

基板について

基板の裏面はコントロール類、それから表面実装のコンデンサ類のみになっています。基板下部には横向きに挿された真空管が配してあります。

基板はプリント基板、表面実装部品も使用されている点から、個人の小規模メーカーを超える水準であると言えます。

可変抵抗の銅線が1mmの極太で少し気になりますが、固定のためでしょうか。

※執筆中に起きたので、追伸するような形で書いておきます。

無駄に太い銅線なんですが、可変抵抗の端子の中に入っておらず、端子の上にぽん乗せしただけです。写真では特に力をかけたわけでもなく、基板から取り外した時点でぽろりと取れてしまいました。端子がなぜ輪っか状になっているのか考えていただきたいのですが、端子に巻き付けたり、輪の中に通すことで固定できるようにというものです。

回路の故障事例では、はんだの経年劣化による罅、割れが原因であることは少なくありません。ハンダクラックという現象です。

ですからしっかりとはんだ付けするのは当然なんですが、今回取れてしまった中央の端子では、端子の上に盛ったはんだの上に銅線が乗っているだけです。

銅線が付いていた跡からして、熱不足から銅線とはんだがしっかりと合金化していません。銅線は非常に酸化しやすので、酸化被膜が邪魔してしまって合金化しにくかったのでしょう。

それを避けるために錫メッキ線を使うんですが、錫メッキ線でも1mmのものはあります。

固定して使う機器でも、一番はんだクラックの原因となる熱膨張収縮応力を考えて、はんだ付けには気を配るんですが、エフェクターは蹴飛ばすので振動が加わることによる機械的疲労、真空管を採用しているので使用前、使用中、使用後と、温度変化の激しい部類です。

以降の内容でも気になる点はいくつかあるのですが、壊れても驚かないなという印象です。

これ以降は銅線が取れる前です。

切り替えスイッチ全般は微小信号を扱うものではなく、電力用の大電圧、大電流を扱うスイッチになっています。ギターの信号はそれより4桁以上小さいですから、スイッチ内部の接点は大きな障壁となりえます。ギター上級者であるほど、弱奏、強奏を使い分けそれらを意識します。弱奏では接点部に起因する音質劣化が如実に現れるので、メーカー品ならプロの方も購入することがあるでしょうから気を配りたい点です。

このあとの裏面の写真では特に気になるのですが、全体的にフラックスが固着しています。

表面実装ICなどでは、はんだ付けする際に補助的に用いることもあるんですが、リード付きの部品が主である、この基板では使う意味はあまり無いため、ヤニが多めのハンダを使っているのかもしれません。なんとなく、アメリカンなはんだの雰囲気を感じます。

通常の電子工作では、フラックスは洗い流す必要がほとんどないとされているのですが、高寿命、高信頼が求められたり、2桁V以上の電圧を扱うといった場合、フラックスの洗浄が一般的です。

フラックスの残渣が空気中の水分を取り込み、イオン化し易い鉛は腐食、絶縁不良を起こすことは基板設計において、イオンマイグレーションという名称で知られています。それを知っていると、やはり洗浄はしたくなります。

もう一点、真空管を横向きというのも好ましくありません。普通の真空管は縦方向に挿すことを想定した作りで、振動にも強いとは言えません。

真空管エフェクターを真っ向から否定するような主張で気は引けますが、エフェクターのような蹴飛ばす機器には向いていないのです。振動で運悪く電極がずれると演奏中に音がでなくなって、悲惨なことになってしまいます。真空管を使うならせめて縦方向で使いましょう。

入出力ジャックは金メッキと見受けられます。一般的に手に入るものでは、貴金属メッキというと金メッキでしょうから、音質的な面での配慮と感じます。

裏蓋を開けた時に見えるのが、基板表面のこちらです。ファズと真空管を用いた歪みですから、部品点数はやや少なめといった印象です。

やはり目に付くのがカーボンコンポジット抵抗、アンプ用の高耐圧大型フィルムコンデンサ、などの宗教的部品らです。両極性コンデンサもできれば控えたい部品ではあります。

当サイトでは、どれも性能的な面から推奨していない部品です。

カーボンコンポジット抵抗は製造工程から炭素被膜抵抗と比べ、精度が悪く、内部の炭素粉の偏りからノイズが生まれる、はんだ付けの熱によって抵抗値が変動してしまう、などが挙げられます。性能が悪いために淘汰された部品ですから、わざわざ使うこともないという考えです。

左端の大きなフィルムコンデンサも、確かに高耐圧に関連するメリットはあるのですが、ここまでの高耐圧は過剰であり、宗教的な意味が強いと感じます。性能的にも、電子部品店で手に入る一般的なフィルムコンデンサにやや劣る場合が多いです。しかし、これ以外の部品は普通のサイズのフィルムコンデンサを使っているのに、なぜここだけなんでしょうか。入力のパスコンなんですが、不思議です。しかしながら浮かせている点は、個人的に良い印象を持っています。

両極性電解コンデンサは本来、回路を動作させる中で、低い頻度ながら信号の逆転が起こるため遠慮がちに使うものなんですが、どうもエフェクターには使われがちです。漏れ電流が大きくノイズになるため避けた方がよい部品です。ただ、同じ容量のフィルムコンデンサは倍以上の値段ですから、コスト的な面で採用されているのかもしれません。メーカー品の設計でコストを追求することは、設計者の役目の一つです。

基板を見た限りでは、以上の点が気になりました。

パターン、回路設計について

前章では図らずとも問題点が主となりましたが、設計思想、回路設計については全体的に良い印象を受けました。

パターン設計については、コントロール類の配置の都合によるパターンの引き回しがあるなと感じた程度です。

まず、idea sound productの担当しているオクターブファズについて。

トランジスタを用いた、オクターブファズではよく見られる型の回路です。オクターバー回路と、ファズフェイス系回路を組み合わせた回路で、各所に工夫が見られるなと感じました。

使用しているトランジスタはやや古いものですが、近年のトランジスタと比較しても低ノイズであり、個人的に好みな選択です。

最近はリード付きトランジスタも種類が減ってしまって、かえって少し古い時代のものの方が使いやすくて、性能も申し分ない製品が多かったなと思い返してしまいます。

設計思想ゆえ、特に悪いというわけではありませんが、入力でギターの帯域を大きく削っているのは留意すべきと感じました。このエフェクターを通った後に接続する機器次第では、音色の選択肢を狭めうることがあります。このエフェクターは、オクターブファズの後に、真空管歪みエフェクターのオン/オフを切り替えますから、真空管歪み回路が扱う帯域は狭いものになります。

また、ファズですからバッファなしの場合、トランジスタのベース抵抗とギターのピックアップの関係から、バッファありとでは別物の音色になってしまうことも注意点となります。

次にLee Custom Amplifierの設計する真空管歪みエフェクターについて。

まず、基板をご覧になっていただきたいと思います。青線で囲んでいるのが、真空管歪み回路になります。

2回路入り汎用オペアンプが1つ、トランジスタが1つ、真空管1つが主な増幅素子となっています。

回路としては理にかなった設計と感じました。入力段でオペアンプによる増幅を行い、真空管で増幅しつつ歪ませ、オペアンプによるバッファで出力しています。

特筆すべきは、使用している真空管の特性を利用した一捻りある回路だと感じました。初段のオペアンプによる増幅も、後段に続く12AX7のような球にはない特性を発揮させるための回路で、しっかり構想を練っているだろうと拝察します。

一部の真空管エフェクターでは極端な低電圧動作で、使う意味があるのか無いのかわからないようなエフェクターもあるんですが、内部で100V以上昇圧しているため、窮屈な動作を強いるような回路ではありませんでした。

また、オペアンプ増幅段では、近い考え方だとインダクタを使用しないワウなどに採用されている回路で、調整の難しいトーン回路群であると感じました。

半導体が使われているので、一部(大半?)の真空管信者の方からは、これは真空管の音(?)とは言えないと言われそうですが、真空管を通っただけというエフェクターも少なくない中、歪み自体は真空管で作っています。

一方、

使用されているオペアンプは、汎用のバイポーラ入力オペアンプですから、ギター直結のようなハイインピーダンス信号は苦手です。入力には必ずバッファを設けるべきで、そのバッファはファズの入力側にしかありませんから、バッファをONにするとファズにもバッファがかかってしまって、困ったことになります。

また、電源のON/OFFスイッチは欲しいと感じます。電源アダプタを挿している間ずっと電源ONになってしまうので、うっかり抜き忘れると真空管がつきっぱなしになってしまいます。

入力ジャックで電源スイッチを兼ねる、BOSSのような仕様になっていなかったのは幸いです。

ところで、中央下部にある電源生成ICの近傍にあるチップコンデンサは、パターンを繋げる方向を左右間違えていないでしょうか。データシートから、チップ抵抗と並列になるはずなんですが、出力側の電解コンデンサと並列になってしまっていて、コンデンサの総容量が少し増えただけというような回路になっています。間違っていなかったとしても、データシート通り、コンデンサを一つ並列にいれておく方が電源投入時のショックは少なくなります。

あとデータシートの方にも飛び火してしまうんですが、データシートに記載されている内部回路が間違っています。日本のメーカーですからしっかりしてほしいなと思います。

話を戻して、オペアンプの中間電圧は、直接信号ラインに分圧抵抗を入れる回路になっています。オペアンプの8番ピンへの給電と違って、直接信号ラインに触れるわけですから、分圧回路でもケミコンでノイズ除去してからバイアスを与えた方が低ノイズになります。

電源回路については他にも色々あるんですが、深入りしすぎてしまうので、一旦はここまで。

総じて見れば最初に述べた通り、電源回路含め、真空管エフェクター側の回路は極めて丁寧な設計であると感じます。良い設計者が関わっているのではないでしょうか。

後書き 今後についてなど

今回は回路の評価的なご依頼でしたので、やや噛み砕いた内容としました。

回路としては、オリジナリティがありつつ、地に足のついた丁寧な設計のエフェクターであると感じました。真空管の特性を利用した設計は、このエフェクターならではのものだと思います。

ところで、約2年ほど何も情報を追えていなかったので、エフェクターに限らず全てのことで浦島太郎のような状態になっています。ファズブームはもう終わったんでしょうか。

入院前に何を作ろうとしていたかなどもうろ覚えなので、回路図を記した手記を元に色々と思い出しつつ、なにかエフェクターを発表できればと考えています。

自作キットなどのお話もあったので、そちらも準備が整い次第お知らせしようと思います。

それから、有料でいいので某◯an R~のパターンが欲しいというような問い合わせもあったので、何某に限らず、回路図なども含んだ説明書的なコンテンツも購入の選択肢を増やせればと思います。

というのも、前々から思ってはいたのですが、今回死にかけたことで誰がこのサイトを維持するかということです。

熱意のある方や、自作に取り組みたい方がいるうちはこのサイトは維持されますし、いなければ時が経つと共にサーバーが止まって消滅するのが、自然の成り行きとしてよいのではないでしょうか。

私の治療費(結構驚いてしまう金額なんですが)や研究費(こちらも驚いてしまう金額なんですが)に消えるよりは、誰でも立ち入ることができるこのサイトが維持された方が幾分気分がよいかと思います。

あと、有料か無料かはまだ未定ですが、余裕があれば回路や電気磁気、プログラミングに関する講義的な記事もアップするかもしれません。個人的に、古典力学なくして電気磁気学はありえないというポリシーを持っているので、そのあたりの基礎からになります。万有引力はクーロンの法則であるという極端な主張が何を言いたいか分かるなら、飛ばして構いません。

高校物理学からになりますが、最終的には大学レベルまで行くことになります。見る人がいればですが。

では、体調がまだ本調子ではないため、このあたりで失礼いたします。

コメント

  1. すま より:

    あなたの新しい記事が再び読めてとても嬉しいです!お体優先でお願いしたいですが、これからも続けていただけると有難いです!

    • ぷらむ* ぷらむ* より:

      ご覧いただきありがとうごさいます。
      そう仰っていただけますと励みになります。
      まだ自作派の方々にとって有益な内容をお伝え出来ていませんので、今後も少しずつではありますが更新してゆこうと考えております。

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